「9984回目だ。なんだか元気がないようだね?スパイさん。」
「すぅ………グガガガガ………ガッ………すぅ…………」
全身の筋力や体力が落ちすぎたためか喉に舌が落ちていびきをかいていた。
「おい、おきろ!」
男は青年の頭を叩く。
1回では覚醒せず、数回叩いた後に真っ赤に腫れている鳩尾を肘でグリグリと押しつぶした。
「……ぐぇえ……おぐっ……………やめ………ろ……」
青年はわずかに腹筋に力を入れた後に覚醒して、荒い息遣いのなかぼんやりと男を眺めた。
「お前の名前は?」
男が尋ねる。
「………たろう」
青年がモゴモゴと答える。
「聞こえない!はっきり言え」
男はこの問いを幻覚剤注入のたびに少なくとも100回は行っていた。
「……せい……たろう」
青年は声がかすれていてまともに話せない。度重なる絶叫により声帯は出血し腫れていた。
「聞こえないって言ってるだろう?わからないのか。」
男は、青年の睾丸を力一杯握りしめ、左右の玉をクルミのように擦り付けるようにして揉んだ。
青年はやはり射精してしまい、男はその動きを手で楽しんでいた。度重なる拷問により、苦痛と射精がリンクしてしまっていたのだ。
「ドクドクとケツが締まっているぞ。なんど、また感じてるのか。ふははは」
「………ぎゃあああああ………ああああ」
青年は体もそらすことができず、ただ嗄れた声を上げ続ける。体からはとめどなく汗が吹き出して意に反した快感を感じ、そして痛みをこらえていた。
精液が分泌されても溜まる間も無く射精させられ続けており、苦痛を感じるたびにわずかながら青臭い香りが股間から発せられる。
「もう一度だけ聞く。お前の名前は?」
「せ………精液出して感じる変態太郎……」
「わっはっはっは!!!!何度聞いても面白い。なんだそれは。今もまた出してるのか、お前がこんなに変態だとはな。もうすぐ解放されるから、その変態ぶりを是非仕事にしたらどうだね。精液飲ませます……!ってか?」
男は執拗に青年の精神を激しく陵辱し、心までも破壊しようとさまざまな精神攻撃を行っていた。
「……では今回は心拍数遊びだ。幻覚剤で心拍を40から400まで動かして遊ぼう。もしかしたら途中で心臓が破裂するかもな。または………急に止まるか、だ。スリルがあっていいな?」
「お前も音を聞きたいだろうから、モニターとスピーカーを置いてやる。」
ドッ………ク………ドッ………ク………
静かに心音が響く。
青年はスポーツ心臓の持ち主で、心拍数は50と低い数値だった。
「じゃぁ………いくぞ。」
男は、青年の頚動脈に幻覚剤を注射した。
「いまからお前を窒息させる。そうすると、お前の体内の酸素は急激に減少し、脳の中枢が刺激され、酸素供給を体循環のスピードアップで補おうとし出す。だが、心拍数は40のままだ。………どういうことかわかるかな?」
「……ぁめろ………し……ぬ……」
かすれた声で青年は叫ぶ。
「まぁやめないがな。じゃあ行くぞ」
男は、拘束されたままの青年の首を締めた。動脈の血流はそのままで、なるべく気管だけを閉塞させた。
「アガッ…………ガッ……!!」
割れてボコボコの腹筋や腹全体が上下運動を繰り返し、体内に酸素を取り込もうと懸命になる。
脈拍数は、相変わらず40のまま微動だにしない。
酸素供給が途絶えたことにより徐々に血液内の酸素飽和度が低下し、細胞が酸素を取り込める量も低下していく。
「ウブゥッ!!!ブゥーーッ!!!ウウウウーーーー!」
口を顎が外れるほど大きく開けて、腹筋をガチガチに硬めて息を吸おうと必死だ。脳に酸素もブドウ糖も届かず、青年は地獄の苦しみを味わっていた。
だが心臓は1秒間に1回も鼓動せず、体内の非常事態にもかかわらずゆっくりと、分間40の速さで規則正しく動き続けていた。
「苦しいか。じゃあ次は心拍を400に設定だ」
「ブゥーー!!!ピィーーーー!!ガッガッガッ!!、ブゥーーーー!!」
青年は喉を鳴らして楽器のような音を立てながら暴れている。筋力が強いため息を吸う力も強いのだが、徐々にその力は弱くなり酸欠による意識の低下が顕著となってきていた。
スピーカーからは、青年の心音が流れ続けていた。
どっ………どっ………
ど……ど……ど…ど…
ドドドドドドドド!!!
男の操作に合わせて急激に速くなり、1秒に3回の早さになった。それでも、心拍数は180だ。
青年の頚動脈はみるみるうちに膨張し、血液を送り出す速度が上がっていた。
体内の酸素は少し循環改善したことにより全身に行き渡ったが、その分二酸化炭素も多く循環することとなったため、息苦しさは変わらなかった。
ドドド!!!ドッ…………ズドドドド!!!!
ドッド…………ドドドドッ!!ドドドドッ!
青年の心臓は心拍数200を超えたあたりから不整脈を引き起こし、正常に血液を送れなくなってきた。
「お前の心臓はそんなものか……?まだ240にもなっていないぞ」
青年は、締められている男の腕を握り続けたまま、ビックンビックンと痙攣し始めた。体内の酸素バランスが崩壊して、脳が活動停止し始めた。筋肉の制御ができなくなり、無秩序に命令が出はじめたのだ。
青年の心臓は、鼓動を乱しながらもどんどんと脈拍を上げていく。すでに、血液循環はほぼ停止して小刻みに心筋が震えているだけに近い状態だ。
スピーカーからも、ドクドクという循環音が消えた。ビチャビチャと、心臓の中で血液が揺れる音だけがわずかに聞こえただけだ。
青年は顔面蒼白で目を閉じて、全身は脱力していた。
「…………はっ!!!ハァハァ!!!ハァハァ!!!心臓………!!」
青年は目が覚めた。やはり幻覚剤による体験であった。
「ヤァ目覚めたか。こんどは、本当の心臓を鏡ごしに見てみようか?胸の筋肉を真ん中で切って肋骨を開くんだ。行きたまま自分の心臓を見られるなんて。なかなかないぞ」
「………いゃぁ………だ………やめてくださいもう………」
「そ………そうだ。さっきのやつで………心拍0にして……………」