「さて次は………目だな。まだ鼻もあるし、耳も残っているし、いいよな?」
「……がぎ……ご………お………」
相変わらず弓なりに身体を痙攣させ続けているツトムの耳にはその絶望の宣告は届かなかった。だが、仮に聞こえていたとしてもその絶望は止められない。
大量の脂汗をかいてギトギトのツトムの顔を、男たちはヘッドギアのようなもので固定した。
相変わらず、ツトムは白目を向いてヨダレや泡を垂れ流している。
「ひと思いにちぎれ。暴れさせるなよ。視神経はなるべく残すんだ。眼球を握りすぎて破裂させるなよ。」
男たちはツトムの両目が露出する面積を左右に広げて、ヘラのようなもので骨に沿って上下を押さえていく。
そして、ゴム製の鉤で眼球を引き抜き始めた。
ほぼ意識のないツトムは、無秩序に眼球をぐるぐる動かしていた。
「やれッ!!」
ぶち………くちゅ………!!!
「……おぁあ!!ぁぁぁぁああーーー!!!」
ツトムは意識のないまま叫び声をあげる。
眼球は徐々に眼窩から抜け出そうとしていた。
周りに付着する細い筋肉が、時折裂ける音がする。
プツ。
ツトムの眼球は、2つとも5cmほどの視神経をつないだまま切り離された。
目が入っていた箇所からは、涙が溢れ出ていた。奥には骨や神経を通す穴が見え、顔には血が滲んで脈に合わせてトクトクと溢れ出した。
「よし上出来だ。持っていけ」
「目かくしくらいは、してやれ。」
男はそう言った。目があった部分にさらしが、巻かれる。
「なぁツトムさんよ。順調に借金返せてるぞ?頑張り屋さんだな!!!」
ツトムは口をだらしなく開けたまま、もう痙攣もせずに静かに息をしていた。
「次は筋肉。オーダーは大胸筋、腹筋、大腿四頭筋、広背筋だ。」
「………ぁ………ぁあ……!!!ぐぁああああああーーーー!!!いぎゃぁあああああ!!」
突如ツトムが暴れ出した。意識を取り戻したのだ。
眼球を失った際に掛かった力により一部の脳神経は著しく変形し、めまいや激痛が襲う。
「俺の!!見えない何も見えない目!!目が!!!ない!!!!」
「ぁあ……そうだ。ないよ。もう無い。売ってやったわ。ふははは」
「え…………」
ツトムは絶句した。
手は拘束されており、顔を触ることはできない。ただ、もともとあったものがなくなったという感覚は本能的に感じていた。
認知した瞬間、もう無いはずの股間から、わずかにジワジワと広がる快感とともにぽたぽたと透明の液体と血液が流れてきた。
あまりの絶望に、肉体が反射的に射精してしまった。当然出すものがないため、かろうじて分泌できるカウパー液のみではあったのだが。
「ツトムさんよ。次はいよいよ筋肉だ。大人しくしてろよ。」
「そうだ。腹筋を取ると息ができなくなる。さもなくば胸を使って息をすることだ………あぁダメだ。胸の筋肉もいただくんだった。だから、息できなくなるからそこで死ぬかもしれない。生きたければ、その鍛えた筋肉の残った部位をつかって頑張ることだ。」
「今まで、それで10分くらい頑張ったやつがいたな?お前は超えられるかな?」
「まずはそうだな。背中の筋肉からいくか。」
男は、ツトムをうつ伏せにさせ、背中を向けさせる。
鍛え上げられた筋肉の塊が凹凸をつくり、広背筋の場所を示唆していた。
「これは取り出しやすいな。筋の境目がわかりやすい。厚さもかなりあるから金になるぞ。」
そう言いながら、躊躇なく背中を深く切っていく。
広背筋は中間より下に三角形の形で付着しており、外縁に沿って身体と垂直にメスを入れていく。上には大円筋なども重なっているが、上に乗っかっている筋肉は容赦なく切っていく方針だ。
「ぉおおおーー!!うごぁーーーーーーっ!!!!やめてくれぇーーーー!!!!」
ツトムは叫ぶ。背中の筋肉が一斉に収縮し、メスによる損傷を食い止めようとした。
だが、分厚い筋肉は音も立てずに切り裂かれていく。
切り裂かれた筋肉からは血が吹き出す。
やがて大きな三角形の形に切り抜かれ、次は体と平行にメスを入れて筋肉を剥離していく。
ペリペリと皮膚が付いたままの筋肉を剥がしていく。黄色っぽい脂肪が筋肉のあちこちに付いていた。綺麗に剥がすことは難しいため、骨にそって大まかに切り取っていく。
背中の脊椎が徐々に露出していく。
「………!!………!!」
ツトムは懸命に背中をそらしてメスの侵襲を拒んでいたが、徐々に筋肉は破壊されていった。
今剥がされた背中の片側からは、薄い膜や取りきれなかった筋肉の向こうに内臓が見え始めた。
血が溢れ出て、背中はベトベトに血まみれになっていく。
「すごい厚みだ!これは極上だな。よし、背中はこんなもので良いだろう。」
そして広背筋をあらかた奪われたツトムは、背中の脊椎や神経をむき出しにされながら必死に呼吸を続けて生命をつないでいた。
もはや、痛みは感じないようだった。
「ヒィーーーーッ!!ヒィーーーーッ!!」
ツトムは、顔をひきつらせながら甲高い声を上げて呼吸する。
背中から空気が漏れて、肺が満足にガス交換ができずに悶えていた。
「次は胸だな。おい、お前たち。こいつを裏返せ」
そう言って、背中の筋肉が半分剥がされて骨が露出しているツトムを乱暴に仰向けに転がした。
「ぁあうぅうううう!!!ギャぁぁぁぁああーーー!!!」
むき出しの背中の神経は、経験したことのない痛みを脳に伝え続ける。
「この大胸筋ともおさらばだ。いくぞ」
男は、胸の外側からいきなり水平に胸の筋肉に切れ込みを入れていく。
ツトムは朦朧としたまま、無我夢中で抵抗する。胸の筋肉は激しく収縮しているが、やはりプチプチと音を立てて筋繊維は千切られていく。
「おれ……のっ!!!ぐぁああああああーーーー!!!鍛えた筋肉………」
ツトムは悲鳴のような声で叫ぶ。
「はぁ……はぁ……暴れるなっての……。ほらよ右の筋肉だ。次左」
同様の切り込み方で、左の大胸筋も剥がしていく。
もはや腕をほとんど動かせないツトムは、抵抗する力を失っていた。
ゴォゴォと喉を鳴らして、泣きながら息をする。
……いや、泣いているのか瀕死なのかも定かではない。
「……ほらよ、胸の筋肉は2つ揃ったぞ」
両手に、ツトムの大胸筋が乗っている。
「太い筋繊維だ。完済までだいぶ近づいてきた。」
ツトムの胸は切り残された筋肉の残骸と肋骨しか無くなっていた。息をするたびに、肋骨に格納された肺が膨らんでいる。
だが、その様子はもうツトムには見ることができない。
「も……う………殺して………俺の筋肉も内臓も………精液も……全部あげるから……心臓を引っ張り出して潰して殺して………脳でもいい………首を締めてもいいから…………殺し……て………」
「ダメだ。何を寝ぼけてる。金を用意するまでは殺さんよ。さあ次は、腹筋だな」
「ぎぎぎ…………い………ヒューー……ヒューー……ヒューー……」
ツトムの呼吸は徐々に弱くなり始めていた。
意識は、もう保てなくなってしまった。
「早くしろ、死ぬぞ。死ぬと鮮度が落ちる。早めに残りも始末するんだ」
男は周りの部下たちにそう伝えた。
「今から腹筋を剥ぐ。そしたら、内臓をすぐに取れ。死んでも構わん」
わずかに上下する腹筋は、まだ無傷だった。
10個に割れ、血管が浮き出ていた。
男は露出している肋骨に手を入れて厚い腹筋を手で掴めるようにメスで切り込みを入れた。
少しずつ浮くように、腹直筋の左右に切り込みを入れながら剥がしていく。
ネチャネチャと筋肉が音を立てる。
臍の下まで剥がしたところで、横方向に切り取って長方形の肉の塊となってしまった腹筋が剥がされた。周りには脂肪がごくわずかについていたが、綺麗なピンク色の筋肉であった。
取り外された腹筋の奥には、まだ残っていた内部の筋肉がやはり厚みを伴って内臓をかろうじて隠していた。体内に近いため、脈に合わせてドクドクと拍動していた。
「ハッ!!ハッ!!ハッ!!ハッ!!」
やがて、ツトムは短く弱い呼吸を繰り返すようになっていた。深く息を吸うための筋力を失いつつあり、瞬間的に圧を高めて呼吸せざるを得ない状態になっていた。
体内から露出した、まだ機能する筋肉が懸命に、そしてリズミカルに収縮していた。
「ははぁ………必死に呼吸を始めよったか。あとどのくらいもつかな?」
「よし、腎臓と肝臓いくぞ。腎臓は動脈を結紮してから安全に取れ。そしてすぐ止血だ。肝臓はそのまま切りおとせ。……いや。まずは腸だな。」
男たちは懸命に呼吸を続けているツトムの腹にメスを入れ、腹部の筋肉や腹膜、横隔膜を切り開いた。6mほどもある腸や大腸などが綺麗に折り重なっていた。ほとんど蠕動せず、ただか細い管がそこにあった。
「よし、引っ張って綺麗に外せ。胃から大腸までの消化管すべてだ。傷つけるなよ。腸は弱いからな。」
食道をメスで裂かれた。血がじわじわと吹き出す。
「止血だ。電気メス当てておけ。」
ジュウ………と嫌な臭いがして、傷をくっつけてしまった。そして大腸と直腸をやはりメスで切り裂いて、消化管の大部分を体から切り離した。
当然血管や神経、さまざまな結合組織によって体内に固定されているが、強引に硬い部分はメスで裂きながらツトムの体内から外していった。
「ふ………ぁぁぁぁ…………」
ツトムは息を漏らし、体の筋肉や内臓をほぼ失った。しばらくの間、心臓は猛烈な速さで動き続け、あるはずの臓器に血液を送ろうと躍起になっている。だが、それはすなわち体内の損傷した血管から血を失い続けている、ということだった。
……こうしてツトムは内臓や筋肉を剥がされ、ただの肉の塊として山の中に埋められた。
ツトムは呼吸の限界より前に、主要な内臓を切り取られたショックで心臓が停止し、身体を大きく一回痙攣させてそのままとなった。
「死んだか。かなり儲かったな。45万ドルださほど儲け……か。やはり筋肉だな。あそこまで鍛えられた肉体は、そうそう無いな。多くは酒浸りのクソ野郎だ。」
カジノでは、またあの会話が聞こえてくる。
「エイジさん、もうやめなよ。40万ドルも貸してるぞ………今日払えるのか?」ガリガリに痩せて血気のないエイジは息も荒く、脂肪がなく血管が浮き出た首の動脈は激しく脈動しながら男に凄まれていた。