ターゲットとなった男は178cm、体重71kg、30歳。
今流行りの俳優のような、中性的な顔立ちの男。
何気なく話を始め、なぜジム通いをしているか聞いてみた。
筋肉をつけてベンチプレス90kgを上げることを目標にしているそうだ。
筋肉がないことをコンプレックスに思っており、自分が満足する体になりたい。そう言っていた。
継続した運動はしていないのか、更衣室でみた腹筋は脂肪に隠れており割れている様子はない。
大胸筋はトレーニングの成果もありやや発達しはじめており、Tシャツの上からみても膨らみが分かるくらいだ。
・・・よし、この男にきめた。
トレーニングが終わった男を更衣室で待つ。
スマホでゲームしながら待っていると、程よく汗をかいた男が更衣室にやってきた。
タオル片手に、少し顔を赤らめてトレーニング後であることをうかがわせる。程よく息が切れ、シャンプーと汗が混ざった匂いがする。
今日はどんなトレーニングを?
そうたずねると、
「ベンチプレスと、腹筋と、デッドリフトと・・・」
男は嬉しそうにトレーニングメニューを話してくれた。
腹筋に力を入れて触らせて欲しい、というと「え、まだ全然だめです。脂肪もこんなについているし・・」と言っていたが触らせてくれた。
コリコリと固い感触が伝わり、確かに脂肪に隠れているが6個の区画を感じることができた。
そして休憩がてら、何か食べに行こうと言って男を連れ出し、6畳の部屋に連れてきた。
「どこですか?ここは・・・・?カフェとかじゃなく?」
男は動揺しており、何が起こるかわかっていない。
まず、トレーニングウェアのままだったのですべて脱がす。
「えっ?まじですか・・・・全部脱ぐんですか?何するの?・・・オイお前っ・・・!」
不審な空気を察した男は抵抗を示す。脱がそうとするのを両手で押さえ込もうとする。
そんなことは関係ないので、とりあえずトレーニングウェアを脱がせる。
「やめっ!やめろよ!!!!何やってんだよ・・・!」
激しく抵抗するが、なにせトレーニングした後なので力が入っていないのだ。だから抵抗にもならない。
・・・まぁ、それほど真剣にトレーニングをしているわけで真面目なのだと思う。
抵抗虚しく、ウェアを脱いで寝そべらせた男の手を紐で縛り、足も紐で縛る。
納豆の藁のように。
やめろ、外せとうるさいので、黙らせるために口にハンカチを詰め込む。
ウーウーと唸るが、それくらいは我慢してもいい。今からやることにワクワクして、そんなことはどうでもよいのだ。
男は荒く息をしており、腹が上下に激しく動く。
恐怖を感じているのか、浅く速い呼吸だ。
首の頚動脈もビクビクと脈動し、心拍数も上昇している。
滝のような汗をかき、不安と絶望がまじった目を見開いてこちらを追っている。
まずは、腹の上に乗る。飛び跳ねてみる。
片足を腹の上にのせた瞬間、男の腹筋に力が入るのを感じた。
トレーニング後であまり力が入らないのだろう。弱くピクピクと痙攣している。
そして両足をのせた。体重は75kg。あまり重くないでしょ。
「ウグッ!!!!・・・・!ウーーーーーーーーーーーーー!」
「う」という発音は腹筋を収縮させて発音するので、防御に適しているのだろう。
誰も教えていないはずなのに、本能というやつか。
ジャンプ、ジャンプ。
柔らかいので、バランスが難しい。
着地するたびに腹筋に力が入り、同時に男の足が跳ねる。
ジャンプするたびに「うッ!アッ!」「ハゥァッ」と声が出る。
おもちゃのように、声が出て面白い。ハンカチが口に入っているのでくぐもっているが悲鳴だということはよく分かる。
10回ほどジャンプしただろうか。
7回目から男の腹筋は緊張を失い、反発力がなくなったトランポリンのようなフワフワしたものに変わっていた。
ジャンプをやめて、様子をうかがう。
男の腹は赤く変色し、体幹はダラーンと力なく横たわっている。気を失っているようだ。
しかし呼吸は続いており、どうにか鼻で空気を出し入れできている。
胸に耳を当ててみると、ドクンッ!ドクンッ!と心臓は元気に鼓動を続けていた。
『ね、もうちょっとさ。腹筋に力をいれて』と、ジム帰りで連れてきた男に言ってみる。
意識を失っているのか、返事がない。
思いっきり頬をビンタして意識を戻す。
意識を取り戻したが、この男にはもうそんな力は残っていない。
返事もできないほどにぐったりしている。
だが、できるだけ力を入れてみようとしていた。
「ううっ・・う・・」
男は、声を出さないと、もう腹筋を収縮させられない。
男の脂肪が少しのった腹を触る。汗で光っており、ひんやりとしている。
確かに力が入って固くなっているが、もう先ほどの埋もれたシックスパックを感じることはできない。
男にはもともと脂肪がやや多くついており、まだトレーニング歴も浅いため腹筋自体の厚さもたりないのだが、
そもそも力を入れることができていないのだ。
『EMSマシンをつけてみようか』、と呟く。
微弱な電流を筋肉に流し、強制的に収縮させてトレーニング効果を生む機械のことだ。
筋繊維を傷つけ、再生させることで筋肉は強化されていく。
男の腹にEMSマシンから伸びた電流パッドを24個装着する。
1台ではなく、4台だ。
「ぁぇぇ・・・」
男が呟く。
きっと「やめて」だろう。
脂肪がなくなればシックスパックに見えるだろうという部位に、丁寧に4つずつ貼っていく。
すべてのスイッチをONにして、出力を最大にする。
息ができないと辛いので、男の口に入れていたハンカチを取り出す。
EMSから流れ出る電流は1台1台から規則的に流れるのだが、4台となるとランダムに近い挙動を示す。
電流が流れる一瞬で腹筋が否応なく収縮するため、絶え間なく呼吸が乱れる。
「ウァアアアアッアッアッアッアッ・・・・・・・ヒッアウゥ・・・スゥーーーッ!ハァーーーッ!・・・」
男の体は痙攣したようにビクビクと動き、目を見開いて絶叫する。
先ほどまでの声の大きさでは考えられないような野太い声で叫ぶ。
男は涙を流し、体験したこともないような苦痛を味わっている。
なにせ、EMSというのは出力を高めると激痛なのだ。
腹筋が、EMSマシンの電流により断続的に収縮を続ける。
男の体を上から見ると、シックスパックの部位別でビクビクと収縮し続けているのがわかる。
強制的に酸素を消費するため、息も上がる。
「あっあっ・・・」といった声や「イギィッ・・」といった声は聞こえていたが、その状態を2時間くらい続けただろうか。
コーヒーをのみ、テレビをみているとそれくらい経っていた、というほうが正しい。
男を見てみると、相変わらず腹筋がビクビクと収縮を続け、体が痙攣したように小刻みに動いていた。
しかし収縮力が弱まってきており、男も声をださなくなっていた。
試しに、腹筋の中部分に腹パンチを思いっきりしてみたが、スッと拳が沈みもはや抵抗はなかった。
ウグゥ・・という小さな呟きだけがかろうじて聞こえた。
その後も、5時間ほどその状態を続けた。
もはや男の腹筋は収縮する力を失い、収縮できる筋繊維をすべて失ったようだった。
男は声にならない嗚咽を繰り返す。声を出すことすらできず、ひたすらに。
男は。肋骨を最大限に膨らませてヒイッ!ヒイッ!と苦しそうな呼吸を続けていた。
そんな状態でも4台のEMSマシンは「最高出力でトレーニング中」というインジケータを示し、腹筋を壊し続けていた。