とある6畳間に、男の絶叫が響く。
「うあぁーー……ッ! ゥウぁっ、ガァッ・・・」
身体中から脂汗をたらし、身体をよじり、全裸の若い男が苦しそうに呻きつづけている。
この男は28歳、身長172cm。みたところの体重は50キロあるかないか、といったところだ。
骨格は細く、全身の筋肉・脂肪はほとんど付いていない。
男が息を吐くため、わずかに腹筋に力が入る瞬間、少し割れ目が入るくらいだ。
肋骨の凹凸が大胸筋では隠せず、目で感じることができるほどに浮き出ている。
男の両手は紐で縛られ、約2メートルの高さにある懸垂棒につながっている。
大の字になって吊るされ、ギシギシと音を立てて揺れている。
男の息は、荒く速く続いている。
途中で唾を飲み込むのもつらいようだ。その瞬間呼吸を止めなくてはならず、その余裕さえも男の体には存在しない。
両手を上にあげて吊るされているため腹筋が伸び、筋肉の収縮が妨げられている。
補助呼吸筋である首の筋肉、肋骨周りの筋肉も総動員して必死に呼吸しなくてはならない。
必死に息を吸うたびに、男のみぞおち付近に心臓の鼓動がドクンドクンと脈打つ。
その動いている部分に、バイタル計測用のセンサーを貼り付ける。
つながれたセンサーから得られた男の心拍数は142。
30分前は110だった。
吊るされた体勢を安定させるため、上半身の筋肉に負担がかかる。
体の酸素必要量を賄いきれておらず、徐々に心拍数が上昇している。
呼吸数は分間50を超えており、胸や腹が激しく上下している。
男が、息も絶え絶えに訴える。
「た、たすけ…ハァッハアッ ・・・てっ・・」
「ハァ…た。ハァ…なんでも…ハァッしますから…」
・・・・なんでもするだって。
じゃあずっとそうして吊るされてください。と、男に言う。
その貧弱な体で、どこまで耐えられるのか見たい。
男は絶望をうかべ、それ以降何も発しなくなった。単に、呼吸するので精一杯なのかもしれない。
男をしばらく眺めてたあと、おもむろに近寄って思いっきり5発腹パンチした。
体重をかけて、腹筋の上部に水平からすこし斜め上方向に、右手の拳を打った。
「ウーーッ!… ガハァッ・・・!」
男の薄っぺらい貧弱な腹筋が拳を包み、意味のない音を口から出している。
どうにかパンチを防ごうと、男の腹筋が硬く収縮している。
衝撃は到底防ぎきれず、パンチが当たった瞬間、男の胃をグチャっとひしゃげさせる感触があった。
最後の2発のパンチを打つころには、すでに腹筋は力が抜けて、力が入っていない。
防御できなくなった腹筋の奥にある激しく鼓動する心臓を、拳の上部に感じる。
心拍数178。
呼吸数は0。
横隔膜やみぞおちの神経にダメージが蓄積し、横隔膜そのものが痙攣して呼吸機能が停止しまっているようだ。
「……… ッァーーーーー!ッスゥハァー!」
心拍数192。
呼吸数は42。
汗がすごい。
・・ようやく横隔膜の痙攣がとけ、呼吸が再開する。
異常な興奮状態の中、男の性器は勃起し始め心拍に合わせてビクビクと上下する。
酸素が欲しい酸素が欲しい酸素が欲しい酸素が欲しい酸素が欲しい酸素が欲しい酸素が欲しい酸素が欲しい!!!!!
男の体は、ただ1つのワードを発し続けている。
しばらく、男が落ち着くのを待った。
5分くらい経過しただろうか。
男の心拍数は147にまで下がった。
どうにか呼吸も落ち着いてきたようだ。
この貧弱な男は、街の大通りを歩いていた知らない男だ。
捕まえて、監禁して、全裸にして、両手を縛って吊るしているだけの男。
出会って2時間ほどしか経っていないから、何の思い入れもない。
さて。そんなことはどうでもよかった。
男の口にガムテープを貼る。
まぁ、ついでに鼻も塞いでおいた。
「やめッ!
ッッッ!ガーーーーーァッ!ウゥーーーーッううううううううーーーッ!」
酸素を断たれパニックになった男は暴れ出す。
薄い腹筋が意味もなく痙攣する。
反射的に息を吸おうと、必死で肺を膨らませようとする。
最低限の筋肉しかない足をバタつかせる。細い大腿筋が筋立てて意味もなく抵抗する。
縛られている手を解こうと、両手をバタバタさせる。
細い腕が筋張り、どうにかガムテープを取ろうと体が大きく揺れている。
何をしても、呼吸することはかなわない。
しばらくすると、男の首の頸動脈が怒張し始めてきた。
どうにか残存する酸素を得るため、体が必死になっているのがわかる。
まだ男は足を弱いながらもバタつかせ、どうにかこの苦しみから逃れようとしている。
だが、それももうできなくなりそうだ。
心拍数208。強い鼓動ではなく、弱く速い鼓動だ。
もう限界の数値。
そのまま30秒ほど経っただろうか。暴れていた男はついに大人しくなり、ほとんど動きかなくなってきた。
勃起した性器から白く濁った液体がダラダラと出る。
快感はないだろう。
極限まで収縮を続ける筋肉に、射精神経が誤反応しただけのことだ。
男は白目を剥き、腹筋だけでなく腕、足、大胸筋が痙攣を始めている。
小刻みに四肢が震え、筋肉の活動に必要な酸素の供給を断たれていることを物語る。
ビクンビクンと不規則に収縮する筋肉は芸術的だ。
できれば皮膚を剥いで筋肉を眺めたいが、それは次のときにやろう。
この男は死なせるつもりはない。
痛めつけて、ただ遊んでいるだけだから…
ガムテープをはずし、息をさせる。
「…・・・ ハァーーーーっ!」
足りない空気を求めて、弱々しく、しかし必死に呼吸しつづける。
「もう… たすけてェ・・・ください・・ッ」
「・・っはーっ ハーーッ!ハーーッ!・・・・・」
…また命乞いがはじまる。
しかし、その呼吸はいよいよ必死さが増し、満足に息を吸えていない様子だ。
息を吸う時に首を痙攣させ、力の限り酸素を取り込む。どうにか首より上の力だけで呼吸をしているようだ。
もはや腹筋群は機能せず、横隔膜を引き上げる力はない。ただダランと下半身をつないでいるだけだ。
ちらっとモニターに目をやる。
心拍数107。
呼吸数は18。
男の疲労しきった筋肉では、もはや呼吸さえもままならない。
心臓も疲弊し心拍数も下がり、体が必要な酸素を供給できず脳の機能も低下しているようだ。
脳が酸素を欲しても、体がついていっていない。
男は喋る事もできず必死に息を吸い続けているが、徐々にその動きは弱くなっている。
ここまでか。
そう呟いた後、男の縛っている紐をほどき、床に投げた。
ようやく男は解放されたのである。