午前7時30分。
男性専用車両の設定された通勤電車は、とある市内に向かってギュウギュウに詰め飲まれた人を乗せてゆっくりと進んでいた。
いつもと変わらない日常のはじまり。
だが、この日はそうではなかった。
「乗客の皆様。お知らせがございます」
「1号車の男性専用車両にお乗りの方へ連絡がございます。先頭を切り離してこの先車庫に入ります。2号車から10号車にお乗りのお客様は、そのまま目的地までご乗車ください。」
1号車に乗っている男たちは、何だ?という顔をしてどよめいていた。
そして、車庫へと誘導される。
夏の暑い日だった。
車内は蒸し暑い。
偶然にも、30代までの若い男たちだけが乗車していた。
車掌がやってきて言った。
「皆様、これから腹筋の潰し合いをしてもらいます。」
「全裸となり、全身……特に腹筋を見せてください。」
「ここにいる男性たちの腹を殴り、30分後に意識を保てていた方にはプレゼントがございます」
「リタイアはできません。」
「腹筋以外の攻撃や、性器への刺激、勃起、射精は禁止です。車両に備わったレーザー装置により、見つけ次第、お客様の身体から腹筋を皮膚組織ごと分離させ、引き剥がしたのちに他の乗客の皆様へお披露目します。」
「何個に割れているか数え、腹筋の無くなった腹を見て感慨に浸ると良いでしょう。」
そう言って、車両から出て行った。
そしてドアが閉まり、乗客たちは閉じ込められた。
は?何言ってんの!
速く駅に連れてけ!
俺は関係ない。降りる!
変な冗談はよしてくれ!
などと、乗客は口々に怒号を発し、閉まったままのドア越しにいる車掌へ詰め寄っていた。
「はやく全裸になって。ルールを守らない方は………」
車掌は、落ち着いた口調で話す。
ある乗客が、ドアを叩いて車掌を威圧した。
28歳の、173センチ58キロの細身のスーツを纏った、目つきの悪い男だった。
「……ォィコラァ……舐めたマネしてんじゃねぇぞ!」
「………お客様。全裸にもなっていないし、腹筋以外への攻撃は禁止です。ペナルティ発動」
すぐさま、この男の腹にレーザーの光束が見えた。
ジジジ……と音がして、来ていたワイシャツが焦げ、肉の焼ける匂いと煙が充満する。
「え?」
「…あっ!!!あーーー!!!!」
「ぎゃぁあああああーーーーー!!!いだぁあああああいいいい…………ぃぃーーぁ………」
その男はたちまち腹を四角く切り取られた。
腹筋があった場所は四角く焼き落ちて、筋肉の残りかすのような繊維や内臓があらわとなっていた。
べちゃ………と音がして、男の腹部が車両の床にずり落ちた。
「はふっ!!はふっ!!!………はっ………はふっ…………」
「はっ!!はふっ!!はぁ!!!はっはっはっ!!!はっふ!ふっ!!!はふっ………!!」
男の必死さが漂う呼吸音が響く。
呼吸するたびに内臓がこぼれ落ちそうになった。かろうじて、残された組織により腹に留められていた。
騒いでいた乗客は、みな凍りついた。
それからも、男は必死に呼吸を繰り返す。
プシュ………
ドアが開く。
入り口に立った車掌は、落ちた腹筋を拾い、周りに見せた。
「お客様。これがこの方の腹筋です。7パックに割れていました。厚さは1.3センチ。普通の筋肉量といえましょう。」
「皆さんの肉体にも腹筋は必ずありますよね。鍛えて割れて、セックスアピールに使っている方もいらっしゃるでしょう。はたまた、脂肪が多く、見えない方も。」
「ですが、もうこのお客様に関しては、7つに割れてかっこよかった腹筋……正確には腹直筋はなくなりました。内臓は支えを失い、だんだんと腹からこぼれ落ち、呼吸もできず、このように………」
ねちゃっ!!!!
どすっ!!!
「ぉ!!!!ぉおおお!!!」
男は掠れた声で呻き声をあげ、腹から内臓を溢れさせながら床に倒れた。
「ぁ………ぁが…………はっ………はふ………」
「……このように腹を潰されてしまいます。」
車掌の拳が、男の内臓が露出した腹に沈む。
腸が押し込まれ、そして潰れていく……。
「痛いだけではいやでしょうから、前立腺を刺激しておきましょうか」
倒れた男の腹へ腕を大きく入れ、ネチャネチャと音を立てながら臓器を揉み始めた。
「…………ぉぅ………ぁ」
男は目を見開き、嘔吐を繰り返す。
はらわたが飛び出し、仰向けとなった股間からは勃起なしに精液があふれ、ドクドクと溢れ出ていた。
「は………はっ…………は…………は」
「ーーーーー!!!ーーーーーーーー!!!」
さらに呼吸は困難を増していた。
肩をすくませ、大きく揺らしながら必死に呼吸を続けていた。顔は青白く、意識はこれ以上保てそうになかった。
呼吸を必死で行なっているが、腹から空気が漏れてシャーシャーと漏れる音が響き、肺に酸素が入っていかないようだ。
「この方は失格です。お引き取りいただきます。」
すぐさま他の駅員が来て、この男を連れて行った。
床には血溜まりができていたがきれいに掃除された。
車両内は、もはや誰も動けず静まり返った。
「……さてみなさん。こうなりたくなかったら、脱いで周りの男の腹を潰して潰して潰しあうことです」
「改めて、今から開始しましょうか」
乗客たちは、さっきまでの怒号を発する気力を完全になくし、素直に全員が全裸となった。
■若い男
「ぅ……うわぁー!!!わぁーーーーっ!!!」
ある若い男が、隣の30代の男に殴りかかった。
恐怖におののいてか、30代の男の肩を掴み顔を殴ろうとしている。
「……おっ!お前やめろ死にたいのか」
30代の男が必死の顔でやめさせようとするが、若い男の力も強く一進一退の攻防だった。
「顔はだ……」
バシッ!!!
「ぐっ………!!!」
必死に静止する30代の男の顔へ、ついに拳がヒットした。すぐさま車掌が飛んできた。
「お客様。不適切な行為です。ペナルティ発動」
車内放送で、死の宣告が言い渡された。
「いいいいい嫌だ嫌だぁ!死にたくない!死にたくないっ!」
その場で頭を抱える男の腹に、レーザーが当てられた。
「やだやだやだ………ううう………」
「すみませんすみませんすみません!!」
「腹筋取るのやめてぇえええーー!っ!!!」
「あつ………い!!熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!」
「え?いやだ!マジで?熱い!!!マジで?」
ジッ……と音がして、煙がで始める。
男の腹が焼かれていく。
「……ぁあああ!!!あっあーーー!!!!あぁぁあぁあーあ!!!!」
若い男は、17センチほどある性器を真上に向けて勃起させ、精液を天井まで飛ばし始めた。
半分ほど引き裂かれた腹筋の隙間に、ドロドロと精液が流れ込む。
腹の内部にあるピンクの繊維が、声を出すたびに収縮しているのが見えた。
そして、精液まみれの腹筋は引き剥がされ、床に落ちた。
それは、8パックに割れて美しい形をしていた。
若い男は激しく痙攣し続け、ゴロンと床に転がっていた。
すでに呼吸は止まっていた。
まだしかし腹の中で内臓がゆっくりと蠢き、わずかにジャッ!ジャッ!!という血液が流れる音が聞こえていた。
それも、だんだん弱く遅くなっていく。
彼の床に落ちた腹筋は、時折ピクピクと痙攣していた……。
■勃起する男
1人の30代の気弱そうな男が、突如泣きそうな声をあげた。
「ぁあーーー!!とまれチンコ大きくなるな、とまれとまれとまれ………」
他の男たちも、何人かは泣きそうな声をして、自らの勃起しかかっている性器を必死に収めようとしていた。
「だれか俺のチンコ止めてくれよ………ぅうう………死にたくない死にたくない………」
極限状態で、精神が興奮したために起こる生理現象だ。
その中でも、そこそこ筋肉質の乗客の股間が1番反応していた。
大学生のようだ。
「……くっ………!!」
すぅーー、はぁーーー。スゥー、ハァー……
慌てて深呼吸を繰り返し、6つに割れた腹筋が膨らみ、そしてしぼむ。
だが意識すればするほど勃起は強くなり、45度の角度に到達した。
「ぁあーー……だめだ………」
大学生はひとりつぶやいた。
「おわったぁ………」
「チンコたたせたまま死ぬとか笑えるな………」
汗だくになって失望している大学生の腹に、再びレーザーが光る。
「………くそっ………」
大学生は、泣きそうで、とても悔しそうな顔をした。
「だ……だれか俺が死ぬまで……チンコしこり続けてくれませんか」
「もう……どうせ死ぬなら気持ちよくなってから………」
……しばらく間をおいて、近くの男が声を上げた。
「……おれもたったまま戻らなさそうだ。そのうちやられそうだし……きみがすこしでも楽になれるなら……俺でよければ」
同じく勃起が止まらなかった男だった。
腹筋は割れていない、ごく普通の若者だ。
「……それに、きみ筋肉すごいから。おれ、憧れてたんだ。憧れてるだけで、なれはしなかったけど。最近ジムに、勇気を出して行けるようになったところだったんだけど」
「だから、自分も死ぬ前に。筋肉がついた身体、見たいんだ」
「……はは。おれも最初はダメでした。続ければ必ず!……今となっては、難しいですけど………。俺の身体でよければ、見てください。チンコさわられるのは、はずかしいけど」
大学生も応えた。
大学生の腹が、ジュ……と音がした直後からじわじわと焼かれ始めた。
腹筋は猛烈に硬くなる。
「ぐぅっ!!!やば………ぅあああっ!!!あああっ!!!!」
必死に悶えて動き回っても、執拗にレーザーが追いかけてくる。驚くべき精度で腹を焼いてきた。
どさぁ……
大学生の腹の筋肉が剥ぎ落ちた。
厚さは3センチを超えていた。
ボコボコに浮き出た腹筋だった。
「……ぁ……………いき………できない…………吸えない………はあっ…………はっ…………はふ…………………」
腹が破れた大学生は、数歩だけヨタヨタと歩いて、その場に倒れた。
先程の男が駆け寄り、未だ勃起しつづけていた大学生の性器を刺激し始めた。
「腹筋、ものすごい立派だったよ。胸の筋肉とかも、すごい」
「もうイキそう。ビクビクしてる。気持ちいいか?」
「………げぼ…………シューーーー………ボコ………ガボ………」
大学生は何かを話そうとしていたが、出るのは泡だけだった。
そして、どろっと精液が溢れ出しだと同時に、大学生は動かなくなった。
■隠れた男
(気配を消して……できるだけ)
骨と皮だけのような若くて華奢な男が、車両の隅でうずくまり、息を潜めていた。
この不条理な状況から抜け出すためには見つからなければ良いと、そう考えていた。
しかし、その甘い見立てはすぐに潰されることとなる。
「みーーつけた!」
身を隠した男のまえに、突如として茶髪の男が楽しそうな声を発しながら現れた。
「絶対隠れてる奴いると思ったんだよな。君弱そうだしこのまま腹ボコボコにされて倒れてくれる?」
「そしたら俺が抜け出せる確率少し上がるじゃない?」
(やばっ……やばい)
男の心臓は体から飛び出そうなほどに拍動していた。
ぶるぶると震えながら、すでに見つかっているのに、すくんで動けずにいた。
「なんかふるえてるけど?見つかってるよーーだ!!」
「あはははは!!」
笑うと腹筋が割れて6個が浮き出る茶髪の男は、震えている男を蹴り上げた。
「ぅぅっ!!!」
(耐えるんだ、死ぬぞ)
「腹しかやっちゃダメなんだってさ。今蹴った感じ、筋肉全くないね。もう一回だけ」
「オラァッ!!!!」
震える男の腹に足が入り、蹴り上げられた。
ひ弱な若い男は回転しながら床に仰向けとなった。
「……この腹かー!弱そっ!」
「筋肉ないじゃん!肋骨浮いてるし。金玉も精子はいってますか?……ってくらい小さいし」
茶髪は笑いながら、荒い呼吸でひくひく上下している男の腹にパンチを入れる。
弱々しく、茶髪の男の太い腕を掴んで抵抗するが、簡単に振り解かれていた。
「おぶぅ……ぐぇぇ………ごめ……んなさ………ぐぇええ」
ひ弱な男の腹に拳がズボズボと入り、男の内臓や筋肉はどんどんダメージが蓄積される。
「あぐぁ!!!………う………おぇ………ぁあっ!!………あああっ!!!…………ぐぉぇ」
(あ……死ぬかも………全く抵抗できない………腹ってこんなに……苦しいの………)
「もーっと。ぐりぐりしちゃおうか!」
「腹筋さ、どこで割れてるか見えないからぐりぐりさせてみ?」
茶髪は、膝をついて拳を垂直に男の腹へと沈めた。
「うごぁ………ぉあ………あ」
残された空気が声帯を震わせ、蛙のような声を出す。
「あった、ここ割れてる」
「もっと力入れろよ、筋肉に」
もはや腹筋に力は入らず、腹を弄ぶ茶髪の体重がそのままのしかかっていた。
呼吸しようとしても、その重みの重心を移動させられることで動きを制限されて息を吸えない。
(息っ!!息…………腹も痛い………気持ち悪い………目が見えない………)
「息したい?」
「さっきから肺、膨らんでない」
「心拍もかなり上がってる」
「酸素、身体ないってよ、きみ。」
男は必死で首を縦に振る。
ドゥ!!!
勢いをつけて、鳩尾の下に拳を打ちつけた。
(息できない……吐けない……内臓がせり上がってくる………苦しい)
(おれ、どうなってるんだろう………耳もぼわーっとしてきたぞ)
茶髪の男が笑いながらいった。
「そんなに血、吐いたらミイラになるよ」
「チンコ勃たせて精液出しすぎでしょ。うっすいやつ。水みたいに飛び散ってる。」
「うわっ筋肉めっちゃ痙攣してるじゃん。白目剥いて、ベロ出して、顔真顔でさ。」
「心臓止まりそうだよ」
「あーあ、もうダメかも……この………にいちゃ…………」
若い男は、ぼんやりした意識で理解できたのはそこまでだった。